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ナシ新品種、里水、あきひめ、陽香の黒星病及び黒斑病に対する抵抗性検定


       
ナシ新品種、里水、あきひめ、陽香の黒星病及び黒斑病に対する抵抗性検定
          
             (独) 農業環境技術研究所    石井英夫

   
石井原図
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○石井英夫1,2・田中茂3
ナシの新品種「あきひめ」と「里水」は黒星病と黒斑病に高度複合抵抗性である
Ishii,H.and Tanaka,S.:The New Pear Cultivars ‘Akihime‘ and `Risui‘ are Highly Resistant to Both Scab and Black Spot Diseases.

ニホンナシ品種「あきづき」とチュウゴクナシ品種「黄花梨」の交雑により田中 茂が育成、登録した3つの新品種「あきひめ」,「里水」及び「陽香」の黒星病と黒斑病に対する抵抗性を調べた。鉢植えにした接木苗に「幸水」の自然病斑から採取した黒星病菌の分生子懸濁液を噴霧接種し、1か月後に発病を調査した。「あきひめ」と「里水」は無発病であったが,「陽香」と対照罹病性品種「幸水」の発病度はそれぞれ67.6,89.5であった。次に,培養により調製した黒斑病菌の分生子懸濁液を切り取り葉に噴霧接種し,2日後に調査した。対照の罹病性品種「南水」は発病度60.0を示したが,「あきひめ」,「里水」,「陽香」には全く黒斑症状は見られなかった。 この結果は,黒斑病菌の培養濾液処理による壊死斑形成の有無とも一致した。千葉県鎌ケ谷市の栽培圃場において黒星病の発生を薬剤散布条件下で調査したところ,「あきひめ」と「里水」の発病葉率はそれぞれ0.1%,0.3%であり,「陽香」の6.1%や「あけみず」×「あきづき」の19.0%を大きく下回った。以上のように,「あきひめ」と「里水」は黒星病に対して高度の圃場抵抗性を持つとともに、黒斑病にも複合抵抗性を示すことが確認された。
1農環研・2吉備国際大・3千葉県鎌ケ谷市)

1.黒星病に対する抵抗性検定
【実験方法】
2008年6月13日、農業環境技術研究所のナシ圃場(品種:幸水)より採取し、冷凍保存した黒星病菌の分生子懸濁液(約5×105個/ml)を、2014年4月13日鉢植えナシ(品種:里水、あきひめ、陽香及び対照の幸水)各2本の全体に噴霧接種。風乾後、20℃の高湿度接種装置に48時間保ち、その後は屋外の網室にて管理。接種24日後に発病を予備調査し、30日後葉全体について調査。
【実験結果】
接種24日後:対照の幸水は胞子形成を伴い激しく発病。里水、あきひめは無発病。陽香は特に葉柄がおびただしい胞子形成を伴い激しく発病。
接種30日後:幸水の発病度は93.9と85.0で、平均89.5。里水、あきひめの発病度はともに0。陽香の発病度は56.5と78.7で、平均67.6。

石井原図

石井原図

石井原図
 幸水の発病  陽香の発病  陽香の発病


【考察】
里水、あきひめは黒星病に高度の抵抗性であるが、陽香は高度の感受性と判定された。ただし、幸水よりは少し感受性が低い。
2.黒斑病に対する抵抗性検定
【実験方法】
黒斑病菌を培養して調製した分生子懸濁液(約1×105個/ml)を2014年4月17日、鉢植えナシ(品種:里水、あきひめ、陽香及び対照の南水、幸水)より切り取った新葉各5枚の裏側に噴霧接種。25℃の湿室に2日間保った後、発病を調査。
【実験結果】
対照の南水には5枚とも顕著な黒斑症状が生じた(発病度:60.0)。里水、あきひめ、陽香の接種葉には、対照の幸水の葉と同様、全く症状が見られず。この結果は、黒斑病菌の培養濾液処理2日後の壊死斑形成の有無によっても確認された。
 
石井原図
左から、南水、幸水、里水、あきひめ、陽香の接種葉。
【考察】
里水、あきひめ、陽香はすべて黒斑病に高度の抵抗性と判定された。 


 
 
石井原図
 
石井原図
 
 
石井原図
 石井原図

平成30年度日本植物病理学会大会(2018年3月開催)
田中 茂1・○今元 一2・石井英夫2

 チュウゴクナシ品種’黄花梨’は黒星病に対する有用な抵抗性遺伝資源である
 Tanaka,S.,Imamoto,K.andIshii,H.:The Chinese pear cultivar 'Huanghua is a useful resource for scab resistance breeding.

殺菌剤に大きく依存するナシ黒星病の防除に抵抗性品種の導入が期待される。ニホンバシ品種’あきづき’とチュウゴクナシ品種’黄花梨’の交配により育成した’あきひめ’と’里水’が黒星病と黒斑病に高度複合抵抗性であることを先に報告した(石井・田中,2015)。今回さらに,同じ交配組み合わせによる育成品種’秋のほほえみ’と’秋ゴールド’,交配親2品種,罹病性品種’幸水’を提供して黒星病抵抗性を検定した。
2016年と2017年,鉢植えにした接木苗に’幸水’の自然病班から採取した黒星病菌の分生子懸濁液を噴射接種した。 1ヶ月の発病調査において,’秋のほほえみ’の閉栓発病葉率は15.8%,’秋ボールド’は27.4%で,’幸水’の84.3%や’あきづき’の40.4%よりも低かった。 一方,’黄花梨’には2回の接種試験で発病は見られなかった。 以上のことから,’あきひめ’,’里水’,’秋のほほえみ’と’秋ゴールド’(すべて品種登録済み)の交配親である’黄花梨’は黒星病抵抗性の有用な遺伝資源と考えられる。
1田中茂・吉備国際大)

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